でもね あとでね

うゑすと §ixTONE§

火の輪を真後ろに セルフィでも

 


風が強かったんです。

台風が迫っていました、高速バスを予約してから生まれたそれには正直、ヒヤリとしたんです。進路がわからないまま日付はぴったしぶつけてきたから…しかし、結局は日を待たずして温帯低気圧になっちまうようなものでした。


はじめての舞台でした。

つまりここ2年の間に決まった彼の舞台出演のあれもこれも、また別の行きたかった今夏の日生も、すべてみすみす見逃してきました。

所詮は田舎の金欠学生でした。

いやしかし、こんなにも喜ばしい連鎖はありません、お仕事がお仕事を呼んでいるのです。次々と。うれしい悲鳴でした。


悲鳴!

わたしは悲鳴をあげていました、

アマデウス出演が決まっていた朝も、マリウス主演を務めることが発表された夕方も、ずっと覚えています。ライオンのあとで出演が発表された早朝も。

早朝でした。5月中旬です、蚊に起こされました。ブルーバックに絶妙な前髪の量で絶妙な表情をした彼が、新聞に掲載されているのがわかりました。

動転  なにせ顔が良く… 

チャリを漕いで最寄りのコンビニに向かい、新聞を買ってそのまま学校で読みました。誰もいない教室で朝からスポ新を読む女子高校生!これこそ悲鳴モンですが、まあ、そりゃ私だって友達とキャッキャしながら祝賀したかったですが、まあ、まあ、生憎。


足を運ぶかどうか、死ぬほど悩みました。

東京へは比較的近くも、大阪へは少しばかり遠いまちに、私は住んでいて。舞台は長期休暇明けの秋頃。丁度中間考査期間、部活動は大会に向けて本気出せと喝を入れられる頃。時間もたいした金もない、でもどうしても今回は、もう待てないと思いました。

今までの「次こそは」のスパンがあまりに短かったうえに、その間に、それがいつまで続くかが見えなくなってしまったから。彼が好きだと謳う舞台仕事や、彼らが今後永劫にアイドルを続ける確証がすべて手のひらからこぼれてしまったから。スパンが短かったと雖も、色々ありましたからね。そう考えると、とっても長いことのように思えるんですけど、


いや、兎にも角にも、後がない思いで行け、という事だと言われたんだった 友人に。


1日だけ、申し込みました。三連休初日。もう外れたら諦めようか、行けなかったのは″外れたから″であって、金銭的に貧しいわけでもなく、予定が組めないわけでもなく、もう少しきれいな理由が欲しかったんだと。

結果は当選でした。

10月6日にEXシアター六本木に来いという通告でした。

 

や、やったあ

 

やったあ?

1週間前になっても、前日になっても、当日になっても、バスに乗っても、電車に乗っても、駅に着いても、風が強かった、パンフレットを買っても、客席に着いても、ぼんやり、とりあえず移動、とりあえず購入、とりあえず着席。

連続する行動はプログラムされたまま、終着点の舞台の観劇だけがふわ、としていて、度々私が何をしに来たのかわからなくなってしまいました。

会う、でもない、でも純粋に舞台を楽しみに来ただけでもない、動機が別のところにあったから、その後ろめたさもまたぼんやりとして。

 


口を開いた異人さんの声は、桐山照史さんのものではありませんでした。

 

ドラマでも映画でも、私はよく俳優を忘れてしまいます。だから、桐山照史さんのここがよかった、とは言えなくて、いたのはデヌーセ少佐だし。でも、カーテンコールに出てきた彼は、誰だかわからなかった デヌーセ少佐かな… そう見えた気がする、そういえばいつか、舞台期間中は役になりきってしまうと言っていたなあと 同じものばかりを食べるんだっけかと、


劇場を出ても、ハアおもしろかったと、デヌーセ少佐は愛くるしいな、と そういう感想。


どこにも桐山照史さんはいませんでしたし、でもこの劇場に連れてきてくれたのは桐山照史さんでしたし、人生を豊かにする動機に、起点に、なってくれているんだなあと しみじみ、


照史くん顔が良かった!なんて口が裂けてもという感じで、まあデヌーセ少佐の顔は私が人生で一番好きな顔でしたが、こんなこと言っても誰もわかってくれないんだろうなとか、あれ犬がいるなとか、たしかにコンビニの前に犬がいましたが、ああそれは桐山さんに顔が似ていたけれど、ああ、デヌーセ少佐…愛しいデヌーセ少佐…、と、考えながら、帰路に着き、夕飯を食べ、風呂に入り、歯を磨いて、布団に入り、眠りについたと、

昨日はそういうわけです。